文明と経済の衝突 ―村山節+浅井隆

文明と経済の衝突は評論家の浅井隆さんと、文明法則史800年説を提唱されている村山節先生の共著だ。文明や国家の栄枯盛衰はおおまかに800年周期で昼と夜のように入れ替わり1600年周期で1周するという壮大な仮説で、あの文明の衝突の著者サミュエル・ハンチントンも注目しているという。

村山先生は天才の出現を研究するうちにある法則があることを発見する。それは文明が起こる時、叙事詩人が出現し次に叙情詩人が出てくる。そして散文、演劇の天才が出て、文明が下り坂になると哲学が盛んになるという。大思想や大宗教は社会秩序の衰退期に現れる。

一方浅井氏は1200年代からの西側資本主義隆盛期の覇権国移行時にバブル期とその崩壊現象があるという。13世紀からの覇権国の推移はスペイン→オランダ→英国→アメリカであるが、覇権国が新興勢力として台頭する時期にバブルの膨張、大暴落、そして不況というパターンがある。

スペインの力が衰えオランダが台頭すると、チューリップバブルが起こりそれがはじけた。オランダが衰退して英国が台頭すると英国で南海バブルが事件が起きる。その英国が衰退するとアメリカが台頭するが、世界大恐慌を引き起こすことになる。

しかも覇権は同盟国もしくは植民地間で移行することになる。オランダはスペインの植民地であり、英国とオランダは一時国王が一緒であった。英国とアメリカは説明の必要はあるまい。

しかしライバル国に覇権が移行することはない。南海バブル事件と同時期フランスでミシシッピ会社事件があったがオランダからフランスに覇権移行は起きなかった。覇権国と次覇権国は敵対し軍事費の負担に耐えかねて次覇権国が没落するのである。この時の英仏、近年の米ソが当あてはまる。

文明法則史800年説では1200年から2000年までは西が陽で東が陰である。西欧近代文明は東洋を圧倒し日本以外はほとんど西洋列強の植民地もしくは影響下に落ちた。しかし2000年以降は東側が陽の時期に入る。しかし移行には夏至が6月なのに実施の夏期が8月であるようにタイムラグが1世紀ほどあるという。

5世紀~13世紀の東洋の覇権国は支那大陸の唐や宋であった。そして文明の移行期の現在はアメリカが覇権国であることは間違いない。21世紀以降の覇権国は中国の可能性も否定できないだろう。しかし著者2名はそれは「日本」であると断言している。移行期の覇権国は文化的な面より科学や政治、軍事といった面にその優位性がある。ローマ、元、アメリカ然りである。

よって両名は結論する。21世紀はアメリカの時代である。日本が出る幕はない。しかし21世紀後半アメリカの国力は急速に落ちると予測されるという。日本は増々アメリカ支配が強まることになる。特に著者が指摘するのは軍事力と穀物だ。化学肥料も農薬も石油製品でありその石油を支配しているのはアメリカだ。

さらに特許、ハイテク、金融とアメリカは日本支配を強めるという。しかし2025年位にどん底を迎えた我が国は方向転換を行い奇跡の回復を成し遂げる。アメリカは21世紀後半急速に衰退し22世紀初頭覇権の移行が起こることになる。

しかし日本の覇権も1世紀100年で中国が取って代わることになる。さらにインドもその実力があるという。日本と中国、インドの関係はギリシャエーゲ海文明とローマ帝国の関係に酷似する。文化的な文明であったギリシャ文明をローマ文明は情憧していた。日本は知や文、徳の文明であり、アメリカ、中国は武の文明だということだ。

何れにしても21世紀前半はアメリカに対し日本は隠忍自重の関係だろう。そのなかで覇権を目指す中国とどのような関係を築くかは21世紀前半のグランドストラテジーになる。デモクラシーにおいての民衆は国策決定の担い手である。文明の大転換期であると自覚が我が国は政治家や国民には欠乏している。

日本は政治的迷走を続けているがもう一度明治維新、終戦時に示された五箇条の御誓文を参照しなければならない。そこには21世紀の日本のビジョンが示されているからだ。それを参照することによって大きな方向から国策が逸脱することはないと思う。