日本企業の生き残りを考える ―TPPを地政学で考える
3極化する反対論
国際政治の地政学的潮流を考えた時、極東は中国の呑みこかれるか、アメリカとの隷属関係を続けるか、自主独立するかの選択肢しかない。我が国の政治家、国民ともその自覚がない。目をおとなりの韓国に向ければ国民にはその自覚がないようであるが、政治家にはあるようだ。反対論は3極化している。1つめは米国の覇権に対する愛国的国防論で自主防衛独立を目指す動きと連携する。2つめは既得権益擁護論で農協や医師会などがそれだ。3つめは東アジア共同体提唱論で小沢氏、鳩山氏、仙石氏、谷垣氏の諸氏。
TPPに参加すると中国との関係が悪化するという危惧を抱いている。2は問題外として1と3は日本のグランドストラテジーとも云えるので善悪を判断するのは難しい。小室直樹先生の衣鉢を継いでいる副島隆彦氏などは明確に3に属する。
中国の輸出先として、2010年の統計でアメリカ(18.0%)、香港(13.8%)についで日本は7.7%の第3位であり、一方日本の輸出入の第1位は中国で両方とも20%程度ある。日本は近年まで輸出入ともアメリカが1位であった。TPPの参加は日本にアメリカやその他の参加国の投資を呼び込むことになる。
特に東北復興にともなう増税が検討されているが、むしろ外国資本を上手く引きこむことで復興をより効率的に実現できる可能性もある。―法的措置が必要、私はそれを愛国法とよんでいる―
私の提案は特に3の戦略を挫くものである。中国併呑を拒否し自主防衛独立を目指すものであることは1と同軸であるが、アメリカを拒絶しないところが1とは違う。まず日本企業のプレゼンスをアジア地域で高めよって中国の依存度を低下させる。
日本企業によるASEAN地域の投資を促進してアメリカによるASEAN地域の投資独占を牽制する。また国内にアメリカその他のTPP参加国の投資を促進することで復興のスピードを加速させる。―日本政府が復興予算9兆を決定するのに数ヶ月を要しているが、バフェットなら1日で事足りる―
日本は明確なメッセージを出すべき
もちろん警戒も必要だ。アメリカはこの手の国際交渉に多くの実務家が関わっている。彼らは業界団体のロービーストでもある。彼らが利己的に巧妙に条約に抜け穴をつくる。現実米韓FTAでは彼らが活躍して一方的に韓国に不利な条約をつくったという。しかし今回は2国間ではなく多国間の交渉だ。日本がのまされた条件を同時にアメリカものむ条件で交渉することで片務的な条約の締結を避けることができる。
しかしこの程度の小事にこだわっている場合ではない。アメリカがTPPによるブロック化を進める背景には中国との関係を方針転換して対決姿勢に出ているということを考慮しなければならない。
APEC総会から東アジア首脳会議までの期間中であった16日、オーストラリアダーウインに2500名の海兵隊配備を発表したことでもそれは明らかだ。
さらに南シナ海でプレゼンスを高める中国政府と人民解放軍を、東アジア首脳の会議参加国18カ国中、16カ国が事前の温家宝首相の根回しにもかかわらず、非難したアメリカへの支持を表明したことはTPPをめぐるアメリカのアジアへのコミットメントが明確に「中国包囲」であり、東アジア諸国はそのメッセージに答えているといえる。
反対派のいう通り警戒すべきことはあるのは当然だ。なぜならTPPは自由貿易ではない。アジアのブロック化であり、見方によっては植民地化ともいえる。しかしアメリカの中国包囲の安全保障戦略にはイエスで答えるべきだ。
しかしTPPの枠内で行われる企業競争は熾烈だろう。安全保障ではアメリカと協調し、企業競争では徹底した生き残り競争を繰り広げる二面作戦を遂行するには政府も国民もそれなりの覚悟と地政学的な大局観が必要だろう。