山尾議員の離党を憲法で考える

  民進党山尾志桜里議員が週刊文春の不倫疑惑報道を受けて党を離党した。僕は民進党の支持者ではないし、山尾議員を評価もしていないが、不倫で離党する必要はないと考える。勿論、議員辞職する必要は全くない。それらを少し憲法との関連で考えたい。

山尾志桜里公式プロフィールより
https://www.yamaoshiori.jp/profile.html

目に余る週刊誌の人権侵害

 昨年のロックバンドのボーカルとタレントの不倫報道を端を発し、今年も数々の不倫疑惑が取りざたされている。僕は週刊誌のこれらの報道は明確にプライバシー権の侵害ではないかと考えてる。人は公共の福祉に反しない限り自由を認められる、という自由権は憲法が保障する各種の権利の根幹をなす権利である。

第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

 幸福を追求する権利を「立法その他の国政上で、最大限の尊重を必要とする」わけだから、私人が不幸になることを制限若しくは抑止する立法もまた必要だということになる。

プライバシー権成立の要件

山尾議員はじめ、芸能人の不倫疑惑報道すべて、私生活の事実の暴露であることは間違いない。人は恋愛する自由があり、たとえ結婚制度が確立している個人でも、その衝動は抑えられない。しかも、だれがだれと恋愛するかは、その個人の自由だ。
 プライバシーの侵害について法的な救済が受けられる要件は、①私生活上の事実、または事実らしく受け取られるおそれがあり、 ②一般人の感受性を基準にして、当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないと認められることがらであること、③一般の人々に、未だ知られていないことがらであること、 と判示している。これを私事性、秘匿性、非公知性の基準としよう。
 山尾議員の場合は、―というより、ほとんどの不倫報道は、①②③すべての要件に合致しているといえる。但し、言論、表現の自由を法人としての報道機関は有しているということも重要な憲法上の権利になる。

第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
この権利を私人のみならず法人にも認められるかは議論があるが、おおむね法人にも認められるというのが有力だ。すると、出版社を含め各報道機関には、自社が取材した事実を報道する自由があることになる。ではこの権利の衝突を裁判所はどのように調整したのだろうか。

報道の自由との調整

 それを裁判所はこのようにいっている。
言論および表現の自由が民主主義の基礎であるならば、その基礎の底に大きく横たわつているのが個人の尊厳である。したがつて言論および表現の自由が個人の利益よりも優位に立つということは考えられない。むしろ一般的にいえば、プライバシーの権利は言論および表現の自由に優先するものと考えるのが正しく、たゞプライバシーの侵害とみえても公表の方法が報道記事であつて公共の福祉に関係する事項であるときや、公人、公職の候補者に関する事項のような特殊な違法阻却事由があるときに限つて、国民の「知る権利」が優先するにすぎないものというべきである。
基本的には、プライバシー権は表現の自由権の上位にあるとしている。但し、内容が、公共の福祉に関することや公人や公職の候補者に関する事柄で、公開に正当性があるときは、国民の知る権利が優先されるにすぎない、としている。

公人は恋愛もできないのか

山尾議員は東京大学法学部出身の元検察官、お相手とされる倉持弁護士は慶応大学法学部卒業の弁護士で憲法が専門だという。であるならば、宴のあと事件「昭和36年(ワ)第1882号」の判決を知らないわけがない。しかし、文春の突撃取材に対する二人の対応は、タレントのそれとなんら変わりがなかった。もっと毅然として文春の行為は明確なプライバシー権の侵害であると、主張してもなんらおかしくはない事例だといえる。
 文春側に反論があるとすれば山尾議員が公人であるということだ。公人には浮気をしているというだれにも知られたくない事実を、出版という営利目的で、尾行され、写真を撮影されて、それを許可なく公開されてもいいということなのだろうか。先出の判示では、違法阻却があるとき、という留保があるわけだから、不倫の公開にどのような正当性が、あるのかを文春側は説明する必要がある。

権利侵害を訴追する機会だった

百歩譲って、山尾議員の公開は正当化できても、倉持弁護士のプライバシーの公開は、明らかに権利侵害になるといえる。法律の専門家が、自らの事例で出版社の権利侵害を主張できるまたとない機会だったのだが、お二人とも要職を引く形で、事態の鎮静化をはかっていることに失望を覚える。
 もし、山尾議員と倉持弁護士が文春を相手にプライバシー権の侵害で訴追したら、今後このような人権侵害の被害をなくすことができたかもしれない。僕は今からでも遅くはないので、倉持弁護士は文春にプライバシー権侵害の訴訟を提起すべきだと思う。

私的感想

 山尾議員は、御主人と子供がいらっしゃって、家庭にはそれなりの満足があったはずだろう。自身の仕事も「保育園落ちた、日本死ね!」で一躍時の人になり、ある層の支持を得て、党は求心力を失うないつつあったが、党幹事長の要職のオファーがあり、仕事も充実されていたことは間違いない。女性の歳をいうのは失礼だが、43歳、仕事も家庭もすべてが順風満帆だったといえる。
 離党会見で、倉持弁護士との関係について「政策ブレーンとして頻繁に打ち合せをする関係だった」と述べている。特に安保法制時の憲法関連についてのアドバイスをされていたという報道もある。おそらく安保関連法制の国会議論の中で、民進党側のブレーンとして関りをもたれた後、個人的なプレーンとなったのだと推測できる。
 つまり、どちらかというと山尾議員のほうから、倉持弁護士を自身のブレーンに引き抜いたということのようだ。しかし、倉持弁護士が憲法に見識があるので、アドバイスをお願いしたというのは、本心ではないと思う。
 僕も憲法の本を書いているが、意外に憲法の学習をするのは簡単だ。まあ、専門的に考察すれば法源も含めて大変だとは思うが、安保法制が違憲かどうかなどということは、東大法学部出身の元検事であれば、簡単に論戦できる程度の問題だ。
 憲法の問題は、おもだった学者の本を10冊程度読むか、―理解することとは別に、司法試験の参考書を読めば、大まかなことは僕でもわかる。だから、山尾議員が、憲法問題やその他の政策ブレ―ンとしてお願いした本心は、ちょっと気になった年下の、しかもそれなりに憲法では博識の男性が気になったということだと想像できる。山尾議員自身が知りえない知性とふれて、尊敬が恋愛感情へ発展したということはあり得ない話ではない。
 幹事長内定を、家庭ではなくて倉持弁護士と、ワインで乾杯したということは、山尾議員の気持ちは、倉持弁護士にベタぼれということだろう。ならば、記者会見でそのように感情を吐露したほうが、よっぽど人間らしい、―女性らしい、し僕たちも、そんな好きだったんならしょうがないんじゃん、と納得できたと思う。つまり、二人は法律家としての責務も行わず―人権侵害を告発する責務、互いの相手にも互いの家族にも、とても不誠実だといえる。
山尾議員は、東大に入り司法試験合格まで苦労をして、そんな時代にご主人と知り合い、結婚、出産そして、検事を退官政治家として再スタート、地位と名声を得て、何の不自由もないようだが、やはり燃えるような恋をしていなかったのだろう。互いに不倫というのは燃え上がるのだろうか。僕は経験がないのでわからないが。

追記

 本日9月13日、山尾議員は昨年末から離婚調停を倉持弁護士と相談中だったという報道があった。但し、倉持弁護士は倫理規定違反で弁護士資格のはく奪の危険があるという。それを十分承知している二人は、不倫関係ではないという一点に集中して危機を回避しているとすれば、さすがに離婚を専門とする弁護士と元検事である。