日本は北朝鮮と国境を接していない


朝鮮民主主義人民共和国はなぜ生存しているのか

北朝鮮は脅威ではない」が、思いのほか好評だったが、危機が現実化する過程の関心高さがうかがえる。ただ、一部投稿を疑問視するコメントも散見されたので、本稿はそれにお答えしよう。何を疑問視されたかというと、北朝鮮は現実的に脅威じゃないか!というものだが、僕は、北朝鮮が脅威にように見えるが、あれは北朝鮮ではなく、北朝鮮をコントロール若しくはそう仕向けている勢力があるということをいっている。現実は北朝鮮危機なのだが、真実は極東情勢の好転ではないのか、というのが趣旨だ。

極東地域の軍事バランス

極東の軍事バランス

図は少し古い資料だが、詳しくは拙稿「朝鮮人民軍の実力」を参照してほしい。最近の資料では、韓国軍は2020年までに52万人に削減される予定である。 一方朝鮮人民軍は推定で120万人といわれている。在韓在日の米軍を含めても、北朝鮮人民軍の兵力は約2倍だ。さらに、中朝国境を管轄する人民解放軍北部戦区には約25万人の兵力があるという分析もある。北部戦区は再編前の瀋陽軍区で、瀋陽軍区の前身が朝鮮戦争に義勇軍を派遣した第4野戦軍なのである。米軍による仁川上陸の攻勢から、金日成北朝鮮軍壊滅を救ったのが、現在の北部戦区ということだ。金正恩北朝鮮の強硬姿勢は、こういう歴史的背景がある。人民解放軍の戦力の他に、ウラジオストックにはロシア軍東部軍管区の2個軍及び航空軍、鉄道軍約9万人が配備されている。


旧瀋陽軍区と北朝鮮

歴史的に朝鮮半島では、他国の影響を排除した独立国は存在していない。現在の両国もそうだ。北朝鮮はソ連が建国して、中国共産党人民解放軍の奮戦が支えた国といえるし、韓国は米軍の支援なしでは、いまごろ、山口県に亡命政権があったかもしれない。先にふれた旧瀋陽軍区は、鴨緑江から反撃を開始して、約2万5千人の戦死者を出しながら、一時はソウルを再占領するまで戦った部隊の末裔だ。過去金正恩の父、金正日は亡くなる前2年間で11回、旧瀋陽軍区を訪問しているという。

中国共産党も恐れる旧瀋陽軍区

また、旧瀋陽軍区は中国共産党にとっても危険な存在だという。かつては北方民族が群雄割拠する地域で、万里の長城はその北方民族の侵入を防ぐためのものだ。近くは軍閥の張作霖が支配した地域であり、満州国が建国された地域でもある。歴史的には北京とは一線を画している地域だ。李氏朝鮮時代から朝鮮族が多く暮らし、満州国建国後も大日本帝国や朝鮮総督府は統治できず、匪賊馬賊の朝鮮族が越境し、町村を襲撃して略奪や朝鮮側住民を虐殺したりている。

朝鮮戦争後は人民解放軍瀋陽軍区が北京の統制を受けず、北朝鮮と特別な関係にあり、それは今でも変わらないということだ。習近平北京政府は、瀋陽軍区の解体若しくは統制を強化するために軍制の改変を行ったが、クーデターを含む頑強な抵抗に会い、名称は北部戦区と変わったが管轄を拡げる結果になった。

歴代北京の指導者は、瀋陽軍区を信用していない。しかし、ソ連やロシアとの国境地域も管轄しているので、軍事予算はもともと豊富だ。周主席が「軍は共産党の指導下にあり、党への忠誠を誓わなければならない」というように、人民解放軍は建前上、中国共産党の軍で国家の軍ではない。しかし、瀋陽軍区のように北京指導部の意に従わない軍閥もある。北京もそれを重々承知なので、核兵器は旧成都軍区、現在の西部戦区が管轄している。

核兵器開発は旧瀋陽軍区の代理?

よって、もし旧瀋陽軍区がクーデターを起こしても、核兵器の確保は難しい。そこで、旧瀋陽軍区が北朝鮮に核兵器開発をさせているという見方もあるくらいだ。2016年、遼寧省を拠点として、北朝鮮への燃料や核兵器開発に必要な物資を密輸出している、女性実業家を公安当局が逮捕した事件があった。

女性が独自で密輸出を行っているとは考えにくいので、旧瀋陽軍区が何らかの関与をしていることは間違いない。では単に資金集めだけの理由で、自国に飛来する可能性がある核兵器開発を支援することがあるだろうか。金正日氏の旧瀋陽軍区への度重なる訪問や女性実業家の事件は、旧瀋陽軍区が北朝鮮の核兵器開発を支援している証左であり、理由は核兵器開発の代理だという見方の裏付けにもなる。

ロシアの動向

北朝鮮は南を韓国、北を中国とロシアと国境を接している。北朝鮮の核兵器開発はロシア極東軍管区にとっても脅威になるはずだ。しかし、国連安保理でのロシアは、あたかも北朝鮮による核兵器開発を容認するというより、支援するという態度に見える。これは、「北朝鮮は脅威ではない」でも説明したスターリンの米国及び米国軍を極東に目を向けさせて、欧州でことを起こすという戦略と合致する。現在ロシアはウクライナクリミア半島をめぐって欧米諸国と対立しており、極東有事は格好の目くらましになる。まさに、ミサイル技術がロシアから流出したという報道とも合致する。旧瀋陽軍区とロシアとの利害は一致しているといえる。

翻弄された日米と北京指導部

北朝鮮は、ソ連と中国の支援なしでは建国できなかった。経済もどうように両国の援助なしには成り立たない。ところが1980年代からの米中の経済交流と1990年代のソ連の崩壊は、北朝鮮の生存とって致命的だった。以後、たびたび行われた六カ国協議においての核兵器開発放棄を条件にした経済援助でなんとか延命してきた。

それは、旧瀋陽軍区の支援下、ロシアとも結託した延命戦略だった。旧瀋陽軍区の目的は北京指導部への恫喝のための核兵器の代理開発であり、ロシアの目的は欧州に対する米国の干渉を緩和するためだ。日米はその本当の狙いを見誤り、また北京指導部も米国からの要求に対して、北朝鮮へ影響力を行使しようにも、旧瀋陽軍区によって妨害され、そのたびに面目がつぶれることになる。国連安保理決議による北京指導部の対応が強硬になっている背景にはこのような事情があるといえる。

いずれにしろ、北朝鮮は操り人形に過ぎない。背後で位置を引くのは旧瀋陽軍区の軍閥であり、それをさらにコントロールしているのはロシアというのが僕の診たてだ。ところがロシアにとって思わぬ診たて違いが発生した。それが日本が集団的自衛権行使を容認したことだ。これによって、極東の軍事バランスは圧倒的に日米韓に傾いたといえる。ロシアにとっては思わぬ展開になった。突然世界最強の同盟軍が極東ロシア軍に対しても優勢になったのだから。

日本が国境を接しているのは北朝鮮ではなくロシアだということを忘れてはいけない。



参考
習近平氏が人民解放軍「瀋陽軍区」に怯えている! 核の原料・技術を平壌に流す?最精強集団
朝鮮人民軍の実力
アメリカは軍事力を行使するのか
自衛隊が極東のパワーバランスを変える!? ロシアが恐れる「安保法制後」の日本