選挙戦を解説 —自民党が選挙に勝つ方法

安倍総理の唐突な衆議院の解散と小池知事の希望の党代表就任、そして民進党の合流と安倍自民党政権にとっては有利と思われた選挙戦が、一転政権交代の危機の蓋然性が高まった。危機管理の専門家として、現状分析と自民党のとるべき選挙戦略を解説する。

現状分析

将棋で例えると、民進党のミスで序盤を有利に運んで、中盤一気にリードを広げるべく渾身の一手を安倍総理がさしたところ、相手の窮地に活路を見出す返し技を受けて、気が付いてみると少し悪いという局面だろう。しかし敵の一手は定跡から逸脱しており、また駒損なので、丁寧に受けて相手の攻撃を切らせてしまえば勝利は転がり込むだろう。

小池知事は、北朝鮮情勢などをふまえて、来年には総選挙が行なわれる設定で、準備を進めていたと考えれる。小池待望論が醸成する機会を伺って、総選挙前に知事を辞職し国政復帰すれば、任期の途中という批判をさけつつ、ブームを巻き起こせると考えた。それは妥当なシナリオだ。

ところがチーム安倍は、その思惑をとん挫させるべく、トランプ大統領来日前のこの時期に勝負に出たわけだ。この戦略も相手の機先を制す意味では戦略理論にかなっている。慌てたチーム小池は、計画通り民進党を離党していた細野氏、長嶋氏を中心に最小限で総選挙を戦う布陣を敷いた。

変更された計画は、徐々に民進党保守派を吸収し、チーム松井と協力ながら保守的な勢力を形成して、チーム安倍の後継を伺うこともスモールスタート戦略の理にかなっている。ところがチーム小池にさらに思わぬ事態が起きた。チーム前原が突然白旗をあげて、チーム小池に投降したのだ。

慌てたのはチーム安倍だけではない、チーム志位も慌てた。野党共闘で自らがその中心となり、選挙協力と称して最低限の資源で最高のゲインを得ようという戦略が崩壊した。残されたのは、チーム前原の残党とタッグを組むが関の山で、ともすれば共喰いの共倒れになるだろう。

チーム安倍は、奇襲に出たが相手が勝負手を放ってきたわけだから、まともに相手をすると逆転しかしかねない現状だ。ここは方針を決めて対処することが望まれる。その方針と対応策をこれから解説しよう。


エンドポイントの設定

危機管理では最初にエンドポイントを決めておく必要がある。エンドポイントとは「そうなりたくない状態」ことで、勝利の戦略のときは「こうなったら勝利」とい状態を設定することになる。チーム安倍の最終目的は憲法改正にあるわけなので、それを実現できる連立で2/3を設定するのが望ましい。

さらに、代替案を必ず用意する必要がある。代替案は目的の達成が見込まれないときに最低限こういう状態は避けることと、相手にとって勝利とはできない状態にすることである。前者は過半数割れとして、後者を若狭氏の落選としよう。エンドポイントは議席数2/3以上で代替案は若狭氏の落選とする。

—若狭氏は小池総理が実現したときは、議員資格なくとも入閣すると考えられるので、それほど影響はないと思われるが、やはりここまでチーム小池を牽引してきた尽力は並大抵ではない。氏の落選はシンボリックだ。

相手の打ちたいところに打て

チーム小池は保守政治を標榜しているので、有権者からみると自民党との見分けがつきにくい。これまで野党との対立は①原発推進②自由経済の推進③安全保障の強化④憲法改正などへの賛否だ。チーム小池はこのうち①について明確に反対することで、自民党との色分けを示した。さらに「しがらみのない政治」として、封建制自民党の悪制である、世襲選挙と派閥政治をもう一つのイシューに据えた。

第二のイシューは僕も支持するところで拙著では世襲選挙を違法化しているくらいだ。自民党が両イシューに対して措置すればチーム小池の打ちたい手の機先を制することになる。逆にいえば、措置できなければ痛恨の一手を食らうことになる。相手は攻めをつなげるべく、こまかな攻撃を次々としかけてくるので、その攻撃を先手で受け止める必要があるのだ。

嘆かわしいのは、こんな状況でも世襲選挙をしようという封建自民党県連があることだ。この他にも引退を表明しいてる議員がおられるが、世襲選挙を続ければ世論は離れ1/2の議席も取れない惨敗になることもある。

女性に優しく男性に厳しく当たれ

都知事選の負けは、石原元知事の小池知事に対するセクハラともいえる「厚化粧のババア」という発言だ。この一言で女性票は大量に小池知事に流れたといえる。小池知事は男女の対立構造の一面をうまく利用して女性世論を味方につけた。

小池知事は防衛大臣を務めるなどタカ派の印象なのだが、タカ派を敬遠する多くの女性票を、おじさんにいじめられる女性を演出することで支持を得た。蓮舫氏のように男性をバッサリ切り捨てるような言動はせず、丁寧な口調に比喩を用いて相手を批判する様子は実に知的であり大人の女性を演出した。

よって小池知事を真っ向から批判してはいけない。安倍総理も麻生財臣もできれば、小池知事に言及することは避けた方が無難だろう。民進党の合流過程は正統性に欠けるきらいがある。政党助成金の行方も怪しい。そういった不義理、無節操や法令違反疑惑を徹底的に主張すべきだ。

また、男性には厳しく当たる。特に若狭氏、細野氏には追及の手を緩めてはいけない。細野氏は地元入りがあまりできない選挙戦になるだろう。もしかすると文春砲が炸裂するかもしれない過去がある。僕はあまりプライベートを公開することには賛成はしないが、イメージ戦略としては有効だろう。

賞賛9と批難1

自民党は、小池知事に対し謝罪してと称賛するべきだ。もともと、都知事選のとき自民党推薦で立候補を希望していたにもかかわらず、石原都連会長がそれを拒否したことに始まる。石原都連会長も世襲議員の一人で、小池氏からみればしがらみの一つだ。そのときの屈辱をばねに、今の旋風を巻き起こしているのだから、その屈辱をやわらげる必要がある。

選挙戦では石原氏が徹底して下座し小池知事に対し謝罪懺悔をして、支持をお願いすれば小池知事の激しい怨念は、少し和らぐのではないか。さらに各候補が遊説で、自民党をここまで追い込んでいることへの手腕に対しても敬意を表して称賛する。9称賛して1批判する、9賛1批の原則を徹底することが重要だ。

相手の目的を達成させる

相手は若狭氏を除いて、世論に迎合するしか生き残れない候補者が多い。細野氏とてそうだ。その世論の支持を得てるのは小池知事だ。小池知事の目的は女性初の総理大臣であり、世論の小池知事へ期待でもある。そしてその源は、自民党との対立を演出することで得ている。よって小池知事は、目的が達成されれば自民党と対立を演出する必要がなくなる。

選挙では安倍総理をはじめ自民党候補者一様に、次は小池総理でいい、がしかし今回の選挙では自民党への支持を訴える。安倍総理は総裁として世襲選挙からの脱却を宣言する。これによって小池知事の選択肢が増えるので、少しだが攻めが甘くなることが期待できる。

要の金を攻めろ

相手の守りの要は若狭氏だ。若狭氏の当選を阻止することを代替とした理由はそこだ。小池知事にも批判はある。都議選で都民ファーストの会の代表を務めながら選挙後は辞任するなど、小池知事の行動を疑問視する声もある。都民ファーストといいながら、選挙戦では国政に携わることは、一部の都民には裏切りに映るであろう。

だが、小池知事の支持は強いので批判の矛先は若狭氏が向けられることは間違いない。そこへ知名度の高い候補を擁立すれば自民党にも勝機があるはずだ。一説には丸川議員を擁立するうわさもありすでに水面下では準備していると思われる。知名度の高い女性候補という選択では三原議員も有力だが、任期の関係なのだろう。若狭氏は丸川議員の舌鋒に耐えられるか焦点になる。

先にもふれたが、若狭氏は落選はするものの党の要職に就任して、小池内閣が誕生したら、議員であろうがなかろうが入閣するだろうから、議員資格はあまり関係がないといえる。ただ、選挙ではシンボリックな出来事になるだろう。

選挙運動方針

自民党は2/3議席確保のためにあらゆる資源を集中して効率よく各選挙区で統一されたメッセージで呼びかける。呼びかけは小池知事は素晴らしい政治家だ、しかし総選挙後にの首班指名では総理大臣にはなれない。自民党は都知事選では非常に無礼なことをした。その非礼は素直に謝る。選挙では戦うことになるが、国会では歩調を合わせることができる。世襲議員の廃止など封建自民党も変わろうとしている。どうか安倍総理に花道をつくってほしい、という方針で遊説をする必要がある。

最悪のシナリオ

旧民進党の元議員は、安保と憲法で選別されるという。安保反対、憲法改正反対を主張していた議員はふるわれることになる。希望の党は、有権者からは保守勢力ということになる。原発廃止を盛り込んだので、原発に対してはリベラルの支持を得られるが、安保、憲法改正という過去多くの有権者が反対の投票をしてきたイシューに踏み込んだので、僕たち保守支持者からはうれしい限りだが、一般の有権者にはどう映るかが問題だろう。

また、中山ご夫婦を結党メンバーにしたことで、共産党からは極右勢力というレッテル貼られかねない。すると、自民党と希望の党で票を分けて、その隙間に共産党が入り込む状況が生まれる可能性がある。実は都議選での共産党の躍進は同様な現象だった。

おそらく、希望の党に合流できなかった旧民進党議員は、共産党の協力を得て各地で選挙戦を戦うことになる。すでに先に離党した山尾議員を応援するという情報もある。いずれにせよ、自民党は安易な小池知事批判をして女性票を減らすことだけは避けなければいけない。

追記

東京都内における小池知事の批判は若狭氏が受けることになると説明したが、都内では希望の党の支持は低調だ。私の周辺でも都知事選の熱狂は感じられない。もともと熱しやすく冷めやすい女性の支持は低調だ。メディアに登場するコメンテータも、オリンピックもあり豊洲もあり、問題山積の東京都政と国政の両立に対して冷たいコメントが散見される。

僕は、若狭氏が一院制を政策に掲げたとき、若狭氏の政策意識に感銘を受けた一人だ。拙著日本合邦国憲法も、議会は一院制を採用している。若狭氏が落選したら、是非一院制について、酒を酌み交わして議論したいものだ。